「ま、朱夏は大して、やることもないけどね」

ナスル姫は結婚に向けて、それこそ花嫁修業が必要だ。
同じような王族に嫁ぐわけでもなく、まして貴族でもない者に嫁ぐのだ。
覚えることは、山ほどある。

だが朱夏は反対に、むしろ身分は上がるほうだ。
今以上に身の回りのことはやってもらえるし、自分でやらねばならないことなど、自ら希望しないと、ないぐらいだ。

「その分、俺の相手をしてくれないといけないんだがな」

くい、と肩を抱く夕星に、朱夏は素直に寄り添った。
照れはするのだが、二人のときなら、べたべたするのも拒否はしない。
久しぶりの夕星の腕の中に、朱夏は柄にもなく甘えたくなった。

「周りだけしか盛り上がってないように思ってたけど、あたしはしみじみ、幸せだと思うわ」

夕星の背に腕を回し、ぺたりと身体をくっつけて言う。

「ああもう、ユウこそ、あたしがどれだけあのとき心配したか、わかってないでしょ」

「んん? ああ、俺が捕まったときか」

夕星は、自分の想いを朱夏はあまりわかっていないと言ったが、夕星だって、朱夏がどれほど夕星を想っているのか、わかっているのだろうか。

朱夏はぎゅぅっと、夕星に抱きついた。

「あのままユウがいなくなってたら、あたし・・・・・・」

考えただけで、涙腺が緩む。
引っ付いたまま、えぐ、としゃくり上げる朱夏を、夕星は自分の胸に、ぐい、と押しつけた。

「悪かったよ。俺も、あのとき助かって良かった。ナスルに感謝だな。でもほら、もうそんな不吉なことは忘れろよ。心臓は動いてるだろ。俺は、ちゃんと生きてるんだから」