楽園の炎

「お嬢さんは、商人じゃないって言ってたな。だったら旅も、物珍しくていいかもしれん。だがわしらのような生粋の商人は、それなりの歳になれば、旅は飽き飽きなのさ。女は特にな。ゆっくりと腰を据えた生活をしたいと思うものだ。子供を連れて旅をするのも、大変だしな」

そういうものなのだろうか。
じっと天幕の中の子供たちを見つめるナスル姫の頭を、ぽんと憂杏が叩いた。

「何、ちびっこの一人や二人、できたときに考えるさ。その頃には俺も、腰を据えようと思うかもしれんし。そこまで考えんでもいい」

「おいおい憂杏。お前はまだ若いだろうが。お嬢さんも若いんだし、ガキなんざ、すぐできるぜ。ま、若いからこそ子連れの旅も、苦にはならんかもしれんが」

「家族で旅を続けるのも、楽しそうですわね」

何気に具体的な話に、憂杏は少し照れたが、ナスル姫はそうでもないようで、にこりと亭主に笑いかけた。

「お嬢さんは、一体どういうおかたなんだい? 立ち振る舞いも何か優雅だし、言葉遣いも上品だ。とても憂杏と出会うようなおかたとも、思えないねぇ」

冗談ぽく言う亭主に、ナスル姫は曖昧に笑った。

「でも憂杏も、王宮に繋がりはあるじゃありませんか。上流貴族のおかたとも、それなりにお付き合いはあるのでしょ?」

「あはは。でもそれは、この国ならではのことだよ。何だかんだいっても、ゆるゆるだからねぇ。王子様のお付き武官も、普通に市に来るし。気さくにわしらとも付き合ってくださる。そんなこと、他の国じゃあり得ないだろ?」

朱夏のことね、と目で憂杏に言い、その話にはそれ以上触れず、ナスル姫は憂杏に促されて反物屋を後にした。