楽園の炎

「夜なんて、それこそ一人じゃ恐ろしいわ! 憂杏はもう、わたくしの恋人でしょ? だったら一緒に寝ても、何もおかしいことはないわ!」

凄いことを言う。
ただ、恋人同士の甘やかなお誘いではなく、もっとお子様な理由のようだが。

「ううう~~ん、いやぁ、ほら、そりゃあまずいだろう。いくら何でも・・・・・・」

しどろもどろになる憂杏とは対照的に、ナスル姫は泣き出しそうな勢いで、腕に縋り付く。

「やだっ!! いっつもすぐ近くにいてよ!!」

「ううう~~ん、そ、そうだなぁ~~」

必死に腕にくっつくナスル姫に、自然と鼻の下が伸びてしまう。
いかんいかんと思う気持ちも虚しく、とうの昔にブレーキなど、壊れてしまったかのようだ。

そのままふらふらと、天幕の外に出、ナスル姫と共に、少し離れた店に向かう。
店に近づくと、主人らしき先に見た顔が、勢い良く二人を手招きした。

「おお! 良い反物じゃないか。これほどのもの、相当上に行かないとないだろう? いつもながら、行動範囲が広いなぁ。お陰でこっちは助かるが」

「商人仲間の中でも、そんなに移動範囲に差があるものなのですか?」

興味深そうに問うナスル姫に、反物の品定めをしながら、亭主が教える。

「ああ。わしのような家族持ちは、そう広い範囲は移動せんよ。女房、子供が可哀相だしな。せいぜいコアトルの港町ぐらいかな。あそこまで行けば、それなりに商品の仕入れもできるしな」

「いろんなところに行けるのは、楽しいものではないの? それとも旅は、そんなに辛いものなのでしょうか」

ナスル姫は亭主の天幕をきょろきょろと見ながら、不思議そうに言う。
垣間見える天幕の中では、小さな子供が走り回っている。
何が不自由なのだろう。