楽園の炎

「おおい憂杏。おめぇのところに、北方の反物はあったかねぇ」

「昨日の夜の残りモンが、まだあるんだよ。いらないかい?」

自分の天幕に近づくにつれ、そこここから声がかかる。
適当に言葉を交わす憂杏に、その辺の者らは目を丸くする。
正確には憂杏に、ではなく、その腕に引っ付いている小さな女子(おなご)に、だが。

「おおっ? 憂杏、何だい、その可愛らしいお嬢ちゃんは」

「人買いに落ちたわけじゃないだろうね?」

わらわらと周りの店から、人が出てくる。
ナスル姫は、ざっと周りを見渡し、ちら、と憂杏を見上げると、腕を離して一歩前に出た。

「憂杏の婚約者、ナスルですわ。よろしくお願い致します」

どよっと周りから、どよめきが起きる。

「こ、婚約者だって? おいおい憂杏、どこで誑かしてきたんだ。お嬢ちゃん、本気でこいつと結婚すんのかい?」

「いやいや、若いのに見る目あるじゃないか。良い奴だよ」

口々に言い、人々は二人を取り囲む。
そんな市の人々を、ナスル姫はきょろきょろと眺め、にこりと笑いかけた。

「商人ではありませんので、何もかもが、全くわかりません。いろいろ教えてくださいね」

ぺこりと頭を下げるナスル姫に、どよめきが大きくなった。