楽園の炎

「ほら。これなら怖くないだろ?」

背中がぴたりと触れ合っている。
ナスル姫は、確かめるように憂杏を振り返った。

「ふふっ。何だか、兄上とかお兄様よりも、安心感がありますわ」

にこりと笑う。
憂杏は、ちょっと照れたように、馬をゆるゆる歩かせた。

「俺はさぁ・・・・・・」

しばらく経ってから、憂杏が独り言のように呟いた。
ナスル姫が、上を向くようにして、ちらりと憂杏を見上げる。

「怖いんだよな。てめぇの気持ちを認めるのが・・・・・・」

ナスル姫は黙って、憂杏を見つめる。

「情けないんだけど。俺が自分の気持ちを認めたらさぁ、この数日間で、お姫さんが根を上げたときに、離せなくなってしまう。と、思うんだよ」

馬に揺られながら、憂杏はぽつぽつ話す。
不思議と照れない。

「きっとな、俺自身、お姫さんのことは、凄く好きなんだと思う。でも、今それを認めてしまったら、お姫さんが俺や市井の生活に愛想を尽かしたときに、目も当てられない程落ち込むような気がするんだ」

だから自然と、気持ちにブレーキがかかっているのだと言う。

「・・・・・・いい歳こいて、そんな姿、見せられねぇだろう?」

苦笑いを浮かべる憂杏に、ナスル姫は柔らかく微笑んだ。

「そんな予防線を張れるなんて、器用なのね」

「・・・・・・臆病なのさ」

自嘲気味に笑う憂杏を、ナスル姫は不思議そうに見上げる。

「意外ですわ。それこそ、いろんな経験をしてきたでしょうに」

小娘一人に振られるぐらい、どうということもないのではないか。
しかし憂杏は、照れたように、ナスル姫から視線を外した。