楽園の炎

王宮の門から出ると、憂杏は口笛を吹いた。
程なく向こうのほうから、一頭の黒い馬が走ってくる。
大柄な憂杏に相応しい、大きな軍馬だ。

ナスル姫が、ちょっと怯えたように、憂杏の後ろに隠れた。

「おや。そういえばこいつは、初めてだっけな」

ぽんぽんと馬を落ち着かせながら、憂杏が言う。
以前憂杏と市に行ったときは、もっと普通の、小さいありふれた運搬用の馬だった。

「この前の子は?」

後ろから顔を出して言うナスル姫に、憂杏は夕星の話を思い出した。
姫には馬に対する、トラウマがある。

「前のは、一時的に借りてたんだ。こいつはずっと、俺の相棒。ただ前は、長旅の後だったし、こいつにもしばらく自由を満喫させてやってたんだ」

そして、己の後ろから顔を出すナスル姫の肩に手を置いて、少し前に出す。

「大丈夫だよ。一人では乗せないから」

言うなり、ひょいと憂杏は、馬に飛び乗った。
姫を抱き上げて、先に乗せたほうが良いかもしれないが、おそらく一瞬でも一人で馬上にあるのは、恐ろしいだろう。
憂杏は馬上から手を伸ばして、姫を引き寄せた。

「ほら、ここに足を置いて」

大きな馬に怯えながらも、ナスル姫は憂杏に手を取られて、鐙(あぶみ)に足をかけようとする。