楽園の炎

「そんじゃあお姫さん。とりあえず散歩がてら、市に行くか」

宝瓶宮を出てから、憂杏がナスル姫を振り返った。

「日よけになるものがいるかな。ベール、持って来るかい?」

言いながら内宮のほうを見る憂杏の袖を、ナスル姫が掴んだ。
ん? というように、憂杏は姫を見る。

「ねぇ。昨日、後でなって言ったわよね」

「・・・・・・んん?」

「後でちゃんと気持ち、言ってくれるっていうことよね?」

かちん、と憂杏が固まる。

「お、お姫さん、いきなり何を・・・・・・」

「憂杏は、いつまでわたくしを‘お姫さん’て呼ぶの?」

ずいっと迫るナスル姫に、憂杏はたじたじとなる。
が、母親にナスル姫を娘として扱えと言った手前、いつまでも自分がナスル姫を姫君扱いするわけにはいかない。

「うん、確かにな。お姫さんの言うとおりだ。が・・・・・・」

「言った傍から‘お姫さん’じゃない」

「いやいや、これには訳がある、ん・だ・が。とりあえず、市に行こう」

妙に言葉を句切り、憂杏は、ぐい、とナスル姫の手を引っ張った。