楽園の炎

「あそこに居を構えるということは、町を治めるってことだろ? まさかお姫さんのように、お前までが市井に下るわけではあるまい」

憂杏の言葉に、まさか、と夕星は肩を竦める。

「俺はそれでもいいんだがね。さすがに兄上が許さんだろう。コアトルは今、叔父上が治めてるんだ。貿易の要だけあって、統治も難しいようだが、叔父上は聡明なかただから。ただ、お子がいらっしゃらない。叔父上は愛妻家だったから、正妃一人で、側室を持たれなかったからな」

「珍しいよな。王家では、跡継ぎを産めなかったら、周りがうるさそうだが」

「まぁ、全く何も言われなかったわけではないだろうけど。王位に関わることではないしな。正妃様も気を遣われて、側室を薦められたようだが、叔父上が聞かなかったらしい」

くすくすと笑う夕星に、憂杏が顎髭を撫でながら、にやりと笑いかけた。

「ほおぉ。コアトルを治めるククルカン皇家の人間は、愛妻家という噂が立ちそうだな」

「そうだな。俺も、朱夏以外に側室を持とうなんて、思わんし」

しれっと言う夕星に、朱夏はきょとんとした。
一拍置いて、かっと赤くなる。

「お兄様。それ、本当でしょうね。そんなこと言っておいて、何年か経ったらうじゃうじゃご側室がいらっしゃったら、わたくしお兄様を見損ないますわよ」

にやにや笑う憂杏の横から、ナスル姫がずいっと乗り出す。

「うじゃうじゃって・・・・・・。俺はそんなに女好きじゃないぞ。・・・・・・嫌いじゃないが」

「んまあぁぁっ! 何てこと言うんですっ! 何だかすっかり俗っぽくなってしまって、宮殿にいた頃の高潔さが、なくなってしまったようですわっ」

「俗っぽさ・・・・・・。それを言うなら、憂杏はどうなるよ。俗っぽさでは、負けてないぞ。というか、憂杏よりも俗っぽいと言われたら、それはそれでショックだ」

「憂杏は良いんです。それが魅力ですもの」