楽園の炎

「憂杏、ナスル姫様は、そんなことは百も承知よ。その上で、それでも憂杏がいいって言ってくださってるんじゃない」

朱夏のフォローにも、憂杏は難しい顔をしたまま考え込んでいる。
やがて顔を上げ、真っ直ぐにナスル姫を見た。

「本当に、いいんだな?」

長く一緒にいた朱夏でさえ、見たこともないような真剣な表情。
ナスル姫も、思わず息を呑んだが、大きくこくんと頷いた。

「よし。じゃあ、俺も覚悟を決める。お姫さんは、俺が必ず守ってやるさ」

ぽん、と大きな手でナスル姫の肩を叩き、力強く宣言する。
いつものナスル姫なら、すぐに憂杏の胸に飛び込むだろうに、このときばかりは大きな目で、じっと憂杏を見たまま、動かない。

「・・・・・・ほんとに?」

小さな声で、ナスル姫が憂杏に問う。

「ああ。約束する。お姫さんが市井の暮らしに嫌にならない限り、一生守ってやるよ」

笑って憂杏が言った途端、ナスル姫の瞳から、涙がこぼれた。
そのまま憂杏の胸に顔を埋め、泣きじゃくる。

「嬉しい。わたくし、いっつも怖かったんだもの。兄上やお兄様は気にかけてくれていても、やっぱりお仕事があるし。侍女の中にもアリンダ様に通じている者もいたりして・・・・・・。一人になったら、気が気じゃなかったんだもの」

「そりゃあ・・・・・・怖かったろうな。大丈夫だよ、一人にゃしねぇから」

ぽんぽんと泣きじゃくるナスル姫の背中を叩き、憂杏は優しく言う。
支えてやらないと折れそう、と感じた理由が、ようやくわかった。
いつ毒牙にかかるかわからない状況の中で、一人で必死に立っていたのだ。

守ってくれる父王や兄たちはいても、彼らはそれなりの地位にある。
始終べったりとついていてくれるわけではないし、ナスル姫にも遠慮はあったのだろう。

護衛の兵がついていたとしても、相手は第二皇子である。
皇族以外は、基本的に逆らえない。
臣下の護衛など、あってないようなものだ。