楽園の炎

「お前も十分、妙な趣味だぜ。普通の娘なら、間違いなく葵王になびくだろうに」

「葵王様だって、素晴らしいかただわよ。わたくしだって、葵王様のことは好きだし、もちろん朱夏だってそうでしょ?」

いきなり振られて、朱夏は目をぱちくりさせたが、すぐに頷く。
ナスル姫が、思い出したように朱夏のほうへ身を乗り出した。

「そうだ。そういえば朱夏、お兄様の求婚、受けたのよね。うふふ、嬉しいわぁ」

まるで自分のことのように喜ぶ。

「あのね、朱夏と結婚したら、お兄様はコアトルの港町辺りに、居を構えるそうよ」

え、と朱夏は、夕星を見た。
コアトルの町は、アルファルドに一番近い、砂漠を越えてすぐの町だ。
砂漠に慣れた者なら、一日で辿り着ける。

「でも、夕星殿はククルカンの宰相なのでしょう? 首都にあらねばならない人なのではないですか?」

葵の言うとおり、ククルカンの首都とコアトルの町では、随分離れている。
宰相は、臣下の最高位。
政(まつりごと)の要だ。
そのような者が、一港町に留まることなど、許されることではない。

が、夕星はゆっくりと起き上がり、ナスル姫の頭を軽く叩いた。

「あっさりとバラすなよ。もうちょっと引っ張るつもりだったのに」

「・・・・・・本気なの?」

朱夏も、信じられないというように、夕星を見る。
そんな朱夏に、夕星は、にこりと微笑みかけた。