葵は手を後ろについて、空を振り仰いだ。

「うん・・・・・・。確かにね。でもやっぱり、‘それなり’なんだよね。今の時点では、だから、前にも言ったけど、将来的にはどうなったか、わからないよ。でもねぇ、夕星殿や朱夏を見てると、僕もそれぐらい強く想う人が欲しいと思ってしまう」

おや、と夕星は片眉を上げる。

「ナスルには、それほど強い気持ちには、なれなかったということか」

「失礼ながら」

正直に、葵は軽く頭を下げた。
夕星は、とん、と葵の頭を小突く。

「いいさ。その上で誠実に接してくれているわけだし。ナスルも、こっちから申し込んでおいて、こっちから振るという失礼をしてしまっているしな。でも父上はもちろん、俺も兄上も、葵王のことは評価しているぞ。ナスルだって葵王のことは、多分憂杏に会わなければ、一番に考えたはずだ」

「憂杏?」

怪訝な顔をする葵に、夕星は『しまった』という顔をした。
が、もう遅い。

「ん? どういうことです? 憂杏に会わなければってことは、もしかして、ナスル姫が気になっている人ってのは・・・・・・」

先の言い方では、最早逃れようがない。
夕星は諦めたように、大きく息をついた。

「ま、どうせそのうちわかることだ。この際葵王にも、協力を頼んだほうがいいしな」

夕星の言葉に、葵は意外にもあっさりと、納得したようだ。

「なぁんだ、そうだったのか。いえね、なかなかお二人は良い感じだったし、そうなるかもな、とは思ってましたよ」

「えええ~~~? そう? だって、憂杏なんて、ナスル姫様と並んだら、いいとこ護衛にしか見えないじゃない。誰があんなおっさんと、あれほど可愛い姫君が恋仲だと思うのよ」

思い切り顔をしかめて、朱夏はずいっと葵のほうに乗り出した。
言い過ぎだ、と、小さく夕星に突っ込まれる。