「お兄様は、反対なの・・・・・・?」

ナスル姫の瞳に、涙が浮かぶ。
朱夏は思わず、寝台に座って姫の頭を抱くように、よしよしと撫でた。

「そうじゃない。お前、憂杏に国を出たいと言ったそうだな。あの宮殿にいるのが、怖いのだろう? 兄上や俺も、常についてやることは、できないからな。憂杏の前では、変に追い打ちをかけるようなことはしたくなかったから言葉を濁したが、アリンダがお前を狙っているのは明白だ。だからこそ、父上も早々にお前をアルファルドにやったのだし」

「な、何ですって。ナスル姫様は、すでに目を付けられてるっていうの?」

朱夏の、ナスル姫の肩を抱く手に、力が入る。
アリンダという皇子の、素行の悪さは有名だ。
無類の女好きだともいう。

そう考えると、これほど可愛い姫を、放っておくはずがない。
兄妹とはいえ、腹違いだ。
ククルカンはどうなのか、よくは知らないが、国によっては問題にならない間柄である。

「アリンダの、お前への執着がどれほどのものかはわからんが、奴のことを考えると、確かに俺は、葵王よりも憂杏のほうが良いと思う。憂杏と一緒になれば、居所が掴みづらくなるからな。例えそれでも、アリンダが手を出してきたとしても、憂杏ならきっと、お前を守りきれると思う。権力に媚びへつらう奴でもないしな」

ナスル姫は朱夏に身体を預けたまま、じっと夕星を見つめている。
夕星は、ぽんと姫の頭に手を置いた。