「あ。多分、憂杏がくれたんだと思う」

「多分?」

首を傾げる朱夏に、ナスル姫はちょっと赤くなりながらも、ぷぅっと頬を膨らませた。

「夕方に来てくれたときに、置いていったんだと思うけど。目が覚めたらいないなんて。とっても悲しくなってしまうわ」

「まぁ・・・・・・ずっと寝顔を見られているのも、恥ずかしいじゃないですか」

笑いながら、朱夏はちらりと夕星を見る。

「好きな女の寝顔ほど、見たいと思うものはないけどな」

さらりと言う夕星に、朱夏もナスル姫も真っ赤になる。
そんな二人を気にもせず、夕星は、部屋にいた侍女に合図して、人払いをした。
三人だけになってから、きょとんとするナスル姫に向かって、夕星は口を開く。

「お前は、憂杏についていく気はあるか?」

いきなりの言葉に、ナスル姫は、大きな目をさらに見開く。
手から落ちそうになった器を、朱夏が慌てて押さえた。

「憂杏は、一所(ひとところ)に留まるような奴じゃない。いろいろなところを巡り、いろいろな町で商売をする。お前が希望すれば、どこかに家を構えることも考えるかもしれんが、あいつは商人だからな。商品の仕入れは必要だから、一月や二月、家を空けることもあろう。そういう男だぞ。お前は、それでもいいのか?」

「お、お兄様・・・・・・」

おろおろと、ナスル姫は夕星と朱夏を見やる。
夕星の言い方はナスル姫を咎めるようで、姫は泣きそうになっている。