ゲテモノ扱いに、憂杏がじろりと朱夏を睨む。
が、動揺しているためか、単に夕星がいるためか、手は出さない。

夕星は笑った。

「はは。う~ん、でもまぁ、ナスルの性格を考えれば、憂杏に惹かれるのも、わかるんだがな。それに、あいつは結構、行動派だぞ。俺ほどじゃないがね」

一旦言葉を切り、夕星は真剣な表情になった。

「それにな、もし葵王と上手くいっても、俺からしたら、あまり安心できない。アルファルドは、ククルカンの属国だからな。アリンダがこの王宮に乗り込めば、例え葵王がナスルの夫だったとしても、逆らえないだろう? そこまでしないとも、限らんのだ」

蒼白になった朱夏を、夕星は抱き寄せる。

「お前だけは、守ると言ったろ。安心しろ。葵王と違って、俺とアリンダは対等だ。もう俺の中に、奴に対する後ろめたさはない」

強い瞳に、朱夏はこくりと頷いた。
完全に不安は拭い去れないが、夕星から以前とは違った強さを感じる。

憂杏は、そんな二人を茶化すでもなく、真剣な顔で考え込んでいる。

「・・・・・・ま、事が事だ。軽く考えられることでもないし、軽く考えてもらっても困る。とりあえず、憂杏は自分の気持ちを考えてみてくれ。ナスルの身分や背景は考えず、ただ単に、あの一人の幼い娘をどう想っているのか。俺もそうだが、あいつも義務や命令で、自分の人生を決めるのを嫌う。そういう気持ちでナスルの気持ちに応えようとしたら、きっとバレるぜ。あいつの洞察力は、並じゃないからな」

ぽん、と憂杏の肩を叩き、夕星は朱夏と共に、四阿を後にした。