楽園の炎

「わたくしも、もっと厳しくするべきでしたのかしら。お小さい頃は、好きに遊ばせて差し上げたほうがよかろうと思って、何も言いませんでしたが、花嫁修業をするわけでもなく、兵士になるなど・・・・・・」

「あらっ。桂枝まで、他の侍女のように文句ばかり言ってたら、あたし、王宮から飛び出してたかも。昔はアルもいなかったし、桂枝がそんな人だったら、あたしの味方は、誰もいないじゃない」

くるりと後ろを向いて、きっぱりと言う朱夏に、桂枝は表情を和らげる。

朱夏には、王の側近である父の他は、身内はない。
その父も、昔から忙しい身で、朱夏とまともに言葉を交わしたことさえない。

そんな中にあって、桂枝は朱夏にとって、特別な存在だ。
もちろん、葵とアルもだが。

「さぁ、じゃあそれは、憂杏(ユウアン)に言っておきますから、今日はちゃんとした宝石をつけて、大人しくしておいてくださいよ」

「憂杏が、帰ってきてるの?」

再び前を向き、仕上げをしてもらいながら、鏡越しに桂枝を見る。
アルから受け取った宝石を朱夏につけながら、桂枝は頷いた。

憂杏とは、桂枝の息子だ。
朱夏より随分年上の大男だが、明るく飄々とした性格で、頭も腕っぷしもいいので、十分王宮勤めもできように、各国を飛び回っては現地で商売をし、ある程度金が貯まると戻ってくるという、気ままな生活をしている。

「じゃ、またいろんなところの、面白い話が聞けるわね」

嬉しそうに言いながら、朱夏は再び短剣を弄んだ。