楽園の炎

「ああ、あの。いや、ええっと・・・・・・。そ、その・・・・・・た、体調を崩したって?」

しどろもどろに口を開く憂杏を、相変わらずじっと見つめていたナスル姫は、ゆるゆると視線を動かして、扉の取っ手に手をかけていた朱夏を見た。
朱夏はその視線に気づき、にこりと笑いかける。

「憂杏とお見舞いに来たのですけど。他に誰もいらっしゃらないようですので、わたくしは夕星様を捜しに行ってきますね」

「しゅっ朱夏っ!!」

憂杏が、泣きそうな声を上げる。
朱夏は笑いを噛み殺しながら、ひらひらと手を振った。

そのまま部屋を出たが、朱夏はさすがにその場に留まった。
閉めた扉に、外側からもたれかかり、とりあえずうっかりナスル姫の悲鳴などが聞こえたら、飛び込めるようにしておく。

---ま、そんなことは、ないと思うけどね---

くふふ、と笑いながら、悪趣味だと思いつつ、朱夏は扉の向こうに聞き耳を立てた。

一方憂杏は、閉まった扉を茫然と見つめた。
身体はナスル姫のほうを向いているので、そろそろ首が痛くなってきたが、首をナスル姫のほうへ戻すのが怖い。
この状況を、姫君はどう思っているのか。

顔を背けたまま、一人嫌な汗をかいている憂杏の耳に、衣擦れの音が聞こえた。
続いて、腕にふわりと冷たいものが触れる。

恐る恐る顔を戻すと、すぐ傍にナスル姫の身体がある。
腕に触れているのは、姫の手だ。

上体を起こした状態で、じっと見つめてくるナスル姫に、憂杏は気が遠くなる。

姫と二人だけで会ったのは、何も初めてのことではない。
抱き上げて、運んだこともある。

今はただ、姫は軽く触れているだけだ。
なのに何故、こんなに動悸が激しくなるのか。