楽園の炎

「そ、そうか。すでに聞いておるのか。そうだな、実はナスルから、今回の見合いは、なかったことにして欲しいと、いきなり言われて困っているのだ。葵王殿は、私からしても、とても良い青年だし、ほれ、弟たちは、ああだろう。葵王殿のように、素直で可愛い奴はおらぬ。父上も可愛がっておられるし、私も彼のことは、気に入っている。彼を傷つけずに、今回のことをなかったことにするには、一体どうすれば良いのだ」

「皇太子殿下が、そこまで葵王を想ってくださっているのなら、さらっと言ってしまってもよろしいかと思いますが。葵王も、ナスル姫様にはお会いしたばかりですし、えーっと、まだよくわからない、とも言っておりますし」

聞いたことが、ぼろぼろと口からこぼれてしまう。
このままでは、憂杏のことも言ってしまいそうだと、ひやひやしながら、朱夏は考え考え、慎重に話を進めた。

「そうなのか。まだ葵王殿は、ナスルに惚れたわけではないのだな? よし、じゃあ今のうちに、さっさと話をしてしまったほうが良いな」

笑顔になって言う皇太子に、朱夏もほっとした。
ここで話が終わってくれれば、ナスル姫が見合いを断った理由までは及ぶまい。

朱夏は退室するため、カップに残っていたお茶を飲み干した。

「いやぁ助かった。いきなりナスルが‘気になるかたがいる’などと言うものだから」

ぶほ、と朱夏は、お茶を噴き出しそうになる。
ここは食い付くべきなのか、突っ込まなければ、もしかして不審がられるのではないか、と目まぐるしく考えを巡らせていると、軽いノックの音が響いた。

「兄上。朱夏がこちらにおられるとか?」

言いながら扉を開け、夕星が入ってきた。

---た、助かった・・・・・・---

一瞬のうちに、あまりに考えを巡らせていたため、若干目眩のしていた朱夏は、ひょいと自分の横に腰掛けた夕星に、心から感謝した。