楽園の炎

しばらく泣き続けていた朱夏が、ようやく顔を上げると、馬はもうすぐ市の入り口に着くところだった。

「ほんとに朱夏は、泣き虫だねぇ。目ぇ、腫れてるぜ」

ちらりと見上げれば、夕星が意地悪く笑って言う。
朱夏は目の前の夕星の浅黒い腕を、思い切り抓ってやった。
いてて、と言いながら、相変わらず夕星は笑っている。

「やっぱり朱夏は、そうでないとな。変にかしこまった朱夏なんて、つまらない。俺が皇子だからって、そんな気にすることないぜ。敬称もいらん」

「だって・・・・・・。だったら、夕星って呼ぶの? あたしが呼び捨てなんて・・・・・・」

市の入り口で馬から降りた夕星に、戸惑ったように言いながら、朱夏が言う。

「だったらユウでもいいさ。敬語も使わんでいい。今は特に、俺は商人だからな」

言いながら、夕星は朱夏に手を差し伸べた。
素直に手を取り、馬から飛び降りた朱夏を、夕星が抱き留める。
朱夏は夕星の腕の中で、ちょっと不思議な気持ちになった。

「あ、そっか」

今まで感じたことのない安心感に、朱夏は、これが炎駒の言っていた、愛する人といるときの感覚なのだということに気づいた。
ちょっと触れるだけでも緊張し、それがだんだんと、安心感に変わる。

朱夏はちらりと、夕星を見上げた。