楽園の炎

「あ、えっと、立場もわきまえずに、とんでもないことを言っていると思いますが」

俯いて言う朱夏を、夕星は馬上からじっと見る。
しばらくの沈黙の後、俯いたままの朱夏に、低い声が落ちてきた。

「乗れ」

どこか不機嫌そうな声に、朱夏はそっと顔を上げた。
夕星は少し身体をずらして、己の前のスペースを、顎で示している。

朱夏が歩み寄り、手綱に手をかけると、夕星は、ひょいとその手を取った。

「命令だ。後ろ向きに乗れ」

「え・・・・・・」

朱夏が理解するより早く、夕星はぐい、と朱夏の手を引っ張り、自分のほうへ引き上げた。
勢いがついて、朱夏はどん、と夕星の腕の中に飛び込む形となる。

馬上で夕星は、朱夏を抱きしめた。
強い力と、荒くなる自分の鼓動で、朱夏は息苦しくなるほどだったが、頬に感じる夕星の鼓動に、不思議な安心感が広がる。

朱夏はそっと、夕星の背に腕を回した。

「・・・・・・本当に、生きててくれて良かった」

言葉にすると、途端に涙腺が緩む。

不意に地下牢で抱きしめられたことが、思い出される。
あの抱擁が、最初で最後にならずに良かったと、朱夏は夕星の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
そんな朱夏を、夕星は何も言わずに抱いたまま、馬をゆるゆる歩かせた。