「あ、お腹すいたなぁ。・・・・・・ユウ・・・・・・づつ様がいなくて良かった」

結構な大きさだったが、さすがに隣室まで聞こえるほどの音ではない。

それにしても、今までユウと呼んでいたのが、『夕星』になり、さらに『様』までつけなければならない。
言葉遣いも注意しないといけないなぁと思うと、寂しくなる。

「朝餉も食べずに寝入っておられましたものね。でも、夕星様がお出かけに誘ってましたわね。お昼は、どうするおつもりなのでしょう」

桂枝が、水盆や寝間着を片付けながら、朱夏の髪を梳くアルと言う。

「どこに行くんだろう? あ、もしかして、市じゃないかな」

朱夏はまだ市にある夕星の店が、そのままなのを思い出した。

「桂枝、憂杏は? そうそう、ずっと用事があったのに、会えずじまいだわ。それどころじゃなかったんだけど、何だか随分会ってない気がする」

「それなんですけどねぇ・・・・・・」

桂枝が困ったように、ふぅ、と息をついた。

「何故だか、ナスル姫様に気に入られて、最近はもっぱら、ナスル姫様のお相手をしているようなのですよ」

へぇ、と朱夏は、鏡越しに桂枝を見た。
そういえば、ナスル姫は憂杏に言われて、お菓子まで作ってたな、と思い、そのお菓子の妙な味を思い出して、朱夏はくすくすと笑った。