楽園の炎

「ナスルが商人のところで見つけたと言って、ククルカン皇家の紋章が入ったメダルを持ってきたときは、肝を冷やした。どこぞで野垂れ死んだのかもしれんとね。そんなタマでもないとわかっているのだが、あやつを失うのは、私にとっては相当な痛手だから」

「・・・・・・宰相としての能力が、それほど秀でているのですか?」

ちょっと信じられないというように、葵が心持ち目を見開いて言った。
それほどの人物が、商人に身をやつして、挙げ句処刑されそうになるなど、信じられない。

葵の様子に、皇太子は笑った。

「まぁ、さっきの薄汚い商人としての夕星しか知らぬのだから仕方ないが。奴は、誰より王者に相応しい器の持ち主なのだよ」

皆、一様に怪訝な顔をする。
そう言う皇太子も、この場にいるアルファルドの者の誰より、威厳がある。
漏れ聞こえる噂でも、決して第二皇子のように、評判が悪いわけでもない。

「確かに私は、次のククルカン皇帝の座に就く人間だ。そのことについて、私の能力が落ちるとは、思っておらんよ。だが、十分ではない。完璧ではないのだ。完璧な者など、そうそういるものではないがね。アリンダは、戦では神の如き働きで、奴を大将に掲げて戦えば、まず負けることはないほどだ。だが、それは私の策略があってのこと。アリンダには、緻密な作戦を練る能力はないのだ。もちろん、作戦通りにいかなかった場合の判断能力は、普通より優れているとは思うがね。アリンダの能力は、戦の現場でのみ、発揮されるのだ。普段の仕事である、政治的な能力はない。反対に、私は全体的な政治能力に優れているのだと思う。私が戦の指揮をとっても、アリンダのように軍を動かすことはできないが、事前に作戦を練ることは、誰より上手いということだな。私とアリンダは、静と動なのだ。どちらかだけでは、国は上手く治められない。だが夕星は、そのどちらの面も持ち合わせている。政治的判断の能力の高さも、軍を指揮する能力も、申し分ない。事実、夕星直属の近衛隊は、アリンダの軍より統率がとれている」