震える朱夏に、炎駒は静かに口を開いた。

「明日、皆の前で、裁可を下すそうだ」

大罪人は、大抵が神殿前の広場で、神官より裁可を下される。
そのまま処刑場に引き出されるからだ。

炎駒の報告に、朱夏の足から、力が抜けた。
倒れそうになった朱夏を、炎駒が抱き留める。

「しっかりしなさい。まだ処刑と決まったわけではない」

「でも! 皆の前での裁可なんて、処刑と決まったようなものじゃないですか! 皇太子殿下も、まだお着きになってないのに、何故・・・・・・」

父に縋り付いて訴える朱夏を、桂枝はおろおろと見つめる。
炎駒は朱夏を励ますように、強く肩を掴んだ。

「皇太子殿下は、間もなくアルファルドに入られる。早馬を出しておいた。幸いにして、ナスル姫様もおられる。殿下が間に合わなくても、姫に頼めば・・・・・・」

言いながら、朱夏と部屋から出ようとした炎駒は、飛び込んできたアルに、言葉を呑み込んだ。
アルは慌てたように、炎駒に訴える。

「え、炎駒様。ただ今宝瓶宮の前に、兵士が。朱夏様は、明日の判決まで、お部屋からお出になりませぬよう、とのことでございます」

「何だと?」

驚いた炎駒が、朱夏の部屋から出ると、宝瓶宮の入り口に、王直属の近衛隊を束ねる近衛隊長が、恭しく頭を下げて立っていた。