「ああ。頑張ったもんな。形は悪いが、美味いぞ」

憂杏が、姫君を粉まみれにしたことなど全く気にせずに、歪な焼き菓子を口に放り込む。
美味い、美味いと言いながら口を動かす憂杏に、ナスル姫は嬉しそうにはしゃぎ回る。

朱夏も焼き菓子の一つを口に入れてみた。
微妙に粉っぽく、それでいて何となく、何故かしょっぱい味が広がる。
砂糖と塩を間違えた程の最悪さではないが、確実に分量は間違えている。
食べられない程ではないが、憂杏の言うように、美味いわけでは決してない。

「ねっ! どう? 美味しい?」

きらきらと目を輝かせて、ナスル姫が身を乗り出してくる。
朱夏はちらりと憂杏を見た。
その瞬間、憂杏にじろりと睨まれる。

「ちょっと配合を間違えているようですが。でも、お菓子を作れるだけでも、素晴らしいです。ていうか、ナスル姫様、凄い格好ですよ。お怪我もなさってるじゃないですか」

朱夏は素直に感想を言い、即座に話題を変えた。
憂杏は黙って、焼き菓子をぽいぽいと口に放り込んでいる。
決して美味しくないのに、彼なりの優しさだろう。

ナスル姫は、今初めて己が粉まみれということに気づいたように、あら、と呟くと、次いで怪我をしていると言われた指を見た。
途端にナスル姫は、傷口を押さえて息を呑む。