愛してるさえ、下手だった



この温もりだけは二度と、離したくないんだ。

「旭、あさひぃ…」

しゃくり上げながら俺の腕を掴んで彼女が俺の名前を呼ぶ。
有芽に名前を呼ばれた時も、こんな気持ちだっただろうか。

彼女との思い出は、遠い昔の血にまみれた思い出の中にある。
そしてきっと、俺が自らその思い出を掘り起こすことはないだろう。

俺はどうしたって弱いから、現在と過去の両方を背負うことなんてできない。

今までは現在から逃げ続けていた。
未来を見たくなくて、現実から目をそらして、過去のことばかりを見つめていた。


だけど、もうそれはやめようと思うんだ。

有芽、俺はこれから目の前のことだけを見ていくことにするよ。


縋りついてくる満希を抱きしめながら、俺は意地悪く訊ねる。

「…返事は?」

「わ、わかってるくせに」

本当はわかっているけれど、満希の口から聞かないと不安なんだ。
またこの幸せが、指の間からこぼれていきそうで。


「あい、してる」

ひらがなにしてたったの5文字。
その5文字が、どうしてこんなにあたたかくて大きな力を持つんだろう。

もう、何だって出来そうな気がする。



…殺し屋を、辞めることだって。