男がゆっくりと振り返り、呆然と立ちすくむ俺に微笑みかける。
いいや、「微笑む」という言葉は間違っているかもしれない。
それは確かに、悪魔を具現化したような笑い方だった。
「俺としたことが、目撃者がいたのか」
男が赤く染まったナイフの切っ先を俺に向ける。
殺される――。
恋人を亡くしたばかりの俺に湧いてきた感情は、
死にたくない
それだけの、醜い欲望だった。
「あ…」
膝が震えて言葉が出てこない。
見つめられただけで心臓が止まりそうだった。
一瞬、本当に刹那の出来事だった。
それだけの時間で、彼は一人の人間を亡きものにしてしまった。
このままここにいれば俺も殺される。
けれどそんな人物から果たして逃げられるだろうか?
考えた末に、俺は。


