愛してるさえ、下手だった



それまで有芽しか映していなかった視界が、周りの景色を捕らえる。

その中に俺は異様な人影を見つけた。

さっきまであんな人いただろうか。
全身を黒に染めた、長身の男だった。
まったく面識のない男だったが、妙に目を引いた。


有芽とその男がすれ違う。
瞬間、時間が止まったように思えた。

だって、だって。
こんなこと、ありえないだろう?

すれ違った瞬間、急に有芽がバランスを崩して地に倒れこむ。
何があったのか考えるより先に、アスファルトに広がる赤い液体が目に入った。


「ゆ、め…?」

次に俺の目に飛び込んできたのは、男の持つ赤いナイフ。
いや、違う。
有芽の血が、銀のナイフを赤に染め上げていたのだ。


嘘だ、嘘だ、嘘だ。

有芽、なんで。
なんでお前が死ななきゃいけないんだ。