午前八時──平日の朝は誰も彼もが忙しなく行き交う。それは学生である彼らも同様である。

 可愛い小鳥のさえずりのなか、草色のブレザーの裾を揺らして女子も男子も校内に吸い込まれていく。

 私立である尾世ヶ瀬(およがせ)学園は高等部のみの学舎(まなびや)だ。

「おい! そこのお前!」

 濃い紫のスーツを着た二十代後半ほどと思われる男が目の前を通り過ぎる一人の男子生徒を乱暴に呼び止めた。

「なんでしょう」

 その男子学生は立ち止まり、さしたる関心も見せず無表情に問いかける。平静を装っているだけなのかとも考えたが、振り向いた少年は男でも戸惑う程の容姿をしていた。