( @:SS )



「好き、だよ。」


長く揺れる前髪、ぎゅっと私を抱き締めそう囁く彼はきっと、いや確実に、私よりも嘘吐きだ。


「……本当に、私のことが好き?」

「当たり前。今更、何言ってんの?」


ほら、また…
私のことなんて、好きじゃないくせに。
彼はまた、そんな言葉を私に紡ぐ。

そして、そう言い放つとともに強まった抱き締める力。先ほどよりも、より強く鼻腔を擽る彼の香水の匂いに、思わず苦笑が漏れた。


「…私も好きよ、あなたが。」

「知ってる、そんなこと。」


こんな言葉の交わし合いなど、何の意味も無いのに。中身の詰まっていない空っぽの言葉なんて、上辺だけでしかないのに。全てが私の、空回りなのに。

これからも続くのであろうこの偽りの関係に、生温かいものが頬を伝った。


「え、ちょ…。いきなり、何泣いてんの?」

「…泣いてなんかいない。」

「嘘つき。」


抱き締められていた体が離れ、彼の右手は私の涙を拭う。けれど困ったような彼の笑みに、余計涙は流れ出て。


「泣かないでよ。君に泣かれると、どうしたらいいかわからなくなる。」


…どうも、しなくたっていい。
ただ、私だけを見て。
言葉だけじゃなく、心から。
心から私を、好きになってよ。

そんな言いたい言葉を全て、ため息とともに吐き出した。

そして、ただ一言――…


「…もう一度、抱き締めて。」


今以上の関係は望まないから。
あなたが傍にいてくれるだけで良いから。
嘘吐きのままで構わないから。

…――だから。
今はこのまま、温もりを感じさせていて。

たとえあなたの優しさが、言葉が、想いが、私へのものじゃないとしても――…





  嘘でいい、好きだと言って


  ( たとえ嘘だとしても )
  (“あなたがいる”)
  ( それが私の“真実”だから )