( @:SS )



ある日の昼下がり、暖かな日差しが差し込む部屋に、よく通る彼女の声が響く。


「ねぇ、《愛する》ってどういうことだと思う?」

「…はぁ?」


唐突に言い放たれた問いに、僕の思考が追いつくわけもない。持っていたコーヒーカップを机に置きながら、僕は彼女を見返した。彼女が背にしている日差しが、僕の目に眩しい。


「いや、だからね?みんな簡単に“好き”だとか“愛してる”っていうけど、それは根本的にどういうことなのかなって思って。」


僕の訝しげな視線に気づいた彼女は、そう言って小さな苦笑を漏らした。そして一口、手にしていた紅茶を口にする。


「でね、あたしなりに考えてみたのよ。」

「へぇ…。で?結局、結論には至ったのかい?」

「ええ、一応ね。あたしが思うに、《愛する》っていうのはきっと、《信じる》ことじゃなく《疑わない》ことなの。」


何でもないように言い放たれた言葉に、コーヒーカップに伸ばしかけた僕の手は止まった。そして再び彼女を見れば、ふふふっと笑う彼女と視線が絡む。


「……どういうことだい?」

「言葉、そのままの意味よ。
世の中、疑うことはこんなにも容易いのに、ただひたすら信じることは、とっても難しいじゃない。」

「まぁ、な…。」


納得できるようで、そうでもないようで。
曖昧な返事を返す僕に、彼女は続ける。


「だから《愛する》ってことは、無条件に相手を《信じる》ことなんじゃないかな。」

「…要するに、ただ純粋に《愛する》ことは難しいってことかい?」

「そういうことね。」


白と黒に彩られた僕の世界。
その世界の中心にいる彼女は、そう言って哀しげな笑みをたたえた。





  モノクロ恋愛


 ( モノクロの世界の君は )
 ( きっと僕を“愛せない” )