( @:SS )



「基本的にあたし、“頑張る”とか、“努力”とかの意味、わかんないんだよね。ましてや“Never give up.”だなんて言葉、本気で大っ嫌い。」


昔から、誰かと比較されることが嫌いだった。でもそれでいて、その誰かに負けるのが何よりもイヤだった。

人一倍負けず嫌いで意地っ張り。
そのはずなのに、“頑張る”ことの意味も“努力”する事の意味もわからないなんて、滑稽すぎて笑える。


「他人からの“頑張れ”って言葉が、常に痛いんだよ。グサって心に刺さる。その人に悪意がなくても、善意だとしても、あたしにとって鋭いナイフと変わりはない。」


言葉を向けられる度、追いつめられていくのはあたし。
周囲の思いがあたし自身の思いより大きくて、気づいたときにはもう、何をすべきかなんてわからなくなっていた。

くだらないプライドに縋り続けるあたしも、結局は馬鹿なのだ。


「ツラいというか、何か悔しい。」


そこまで話したあたしは、目の前にある、すでに冷めきったコーヒーに口を付けた。
普段ブラックなんて飲まないからか、慣れない苦さが口に残る。


「…あのー、先輩。俺思うんですけどー、先輩は深く考えすぎですー。」


不意に口を開いたのは、さっきからずっとあたしの前に座っている後輩。彼の瞳に視線を移せば、彼は控えめな笑みを浮かべる。

―――そして。


「頑張るとか努力とかって、そんな気張るものじゃないと思うんですよね。
結局、先輩は誰かに“大丈夫”って、そう一言、言って欲しかっただけなんですよー。」


向けられた笑顔と続けられた言葉に、ほんの少しだけ気持ちがラクになった気がした。

でもそれと同時に、見透かされた心がちくりと痛んだ。





  たった一言の効果


  (“大丈夫”)
  ( その一言で )
  ( 安心させて )