( @: カオスなSS)



「コレ、リスカですよね?」


不自然な傷跡がたくさんついた私の左手首を見て、不思議そうに首を傾げた後輩。


「他人には関係ない。」


自傷行為が愚かなことだとわかってるからこそ、私はそう冷たく言い返す。


「確かに関係ないですけど。自傷行為は無意味ですよ。」

「…だから?」


ただ、イラついて。
思い通りに進まない現実にムカついて。
そんな自分が大嫌いで。
まるで罰でも与えるように、私は手首に紅い線を引き続けた。

でも、無意味なこともわかってる。
わかってるけど傷つけ続けるのはきっと、ある種の中毒なのかもしれない。


「…自殺願望あるんですか?」

「ない。…今は。」

「あったんですか?昔は。」

「…多少。」


きっと、多少はあった。
ただ、私には勇気がなくて。ナイフを深く突き刺す勇気が、どうしても…

だから私の傷は、浅くて多い。治りかけて薄くなった傷跡の上に走る、新しい紅…。くだらない、止まらないエンドレス。


「あの、思うんですけどー」


微妙な静寂を破るように、相変わらず間延びした話し方で話し始めた彼の声に耳を傾けた。


「もうやめたらどうですか、コレ。先輩はただ、誰かに止めて欲しいんでしょー?自分じゃ止められないから。」

「……え?」


私に有無を言わせず放たれる言葉に、思わず眉が寄る。

…でも。


「誰かにやめろって言って欲しいんですよ、先輩は。だから言ってあげます。……リスカなんてもうやめろ。」


彼の言葉には、妙な安心感とともに、不思議な説得力があった。

私はきっと彼が言うように、止めて欲しかったんだ、誰かに。愚かなことを続けるあたしを、壊れかけたあたしを…

…そして、


「切ったって、傷跡以外何にも残らないじゃないですか。」


向けられた優しい笑顔と、そっと傷に触れた彼の指先…。ぬくもりが伝わってくるのとともに、何故か涙が溢れた。





  リスカ中毒


  ( 壊れていたのは身体じゃなくて )
  ( 心の方だった )