( @:カオス )



「なぁ、」

「……」

「なぁって、」

「……」


愛しかったはずの彼女は、俺の目の前で横たわったまま、何一つ俺への反応を示さない。

ついさっきまで、呼び掛ければ明るい笑顔を向けてくれたのに。綺麗な声で答えてくれていたのに。
何で。どうして。

蒼白な彼女の顔、白いノースリーブのワンピースから伸びる長い四肢。全体的に白い彼女は、儚くて、なぜだか遠い存在であるように思えた。

刹那、ある一点の異変が、俺を思考の底から引き上げる。…否、それを異変と呼ぶのは少し違うような気もするが。

横たわる彼女の腹部、そこに滲む残酷なまでの紅。その色を鮮明に視認するとともに、俺の中で何かが弾けたように、ある記憶を彷彿させた。

そしてふと、その記憶に導かれるように、自らの両手に視線を落とす。すると視界に映ったのは、何よりも鮮やかな色彩。彼女の白を染めていた色が、俺の両手までを染めている。

…――ああ、そうだ。

血濡れの両手を見て、ふと、気がついた。全てを、理解した。何もかも、思い出した。

…――そうか、君はもう死んだのか、と。他の誰でも無い、俺が殺ったのだ、と。





  死を彩る鮮やかな色


 ( 愛しいが故に )
 ( 君を殺した )