春風が通りぬけるとき。



「あのね井上さん」


しんと静まりかえっているこの保健室には、彼女の声だけがよく通る。

廊下でさえ、物音ひとつしない。


「私は恋って、そう簡単に諦められるものではないと思うわ」

「……」


真帆は口を閉ざしたままだが、気にせずに言葉を紡ぐ。


「貴方は彼に想いを寄せて、苦しいと感じているの?」


(どういう意味…?)


「答えて」


そのきっぱりとした声とは裏腹に表情は穏やかだ。

真帆はじっと問いてきた相手を見つめる。

やがて、はいとゆらゆら頷いた。