土方に頼まれたからだけではなく、矢央自身が山南を気にしてあの日から山南の傍を離れなかった。
冬の寒さは強まり雪も深さを増した二月頭、矢央たちは山南の行き付けとしている輪違屋の明里に会いに来たのだが、どうやら彼女は山南とそういう関係にあるらしい。
山南と明里を取り囲む空気は、他を寄せつけんとしている。
「良い女だよ、彼女は。 ああやって、山南さんにしか酌をしねぇ」
「明里さんに初めて会った時、新八とことん振られてやけ酒してたもんな」
「ふぅん」
山南の久しぶりに見せる穏やかな顔を見ていると、本当に明里に心を許しているんだと分かる。
そして明里も、山南の身体に撓垂れ嬉しそうに頬を染めていた。
見るからに二人だけの世界を作り上げているのに、空気を読めない唯一人の男、藤堂平助。
山南の酌で気持ち良さげに、ふわふわと身体を揺らしている藤堂を、遠巻きに見る男が二人に女が一人。
「勇気あるなぁ、平助さん。 私ならあんな熱々な二人の間には入っていけない。 邪魔しちゃ悪いし」
「おいコラお前。 今のちぃっと聞き捨てならねぇんだが、先日お前は俺が帰るより先に家にいた上、帰れっつっても朝まで居座ったのは……お前だよな!」
「あの日は、山南さんが明里さんを訪ねてるなんて知らなくて捜し回っていたら偶然おまささんに会って、ご厚意で招いてもらったんですよ」
「ンで、そこに、さも当たり前のようにお前もいたよな?」
「俺は矢央の付き添いだ。 いやあ、おまさちゃんは良く出来た嫁だな! 飲ませ上手なもんだから、つい飲みすぎて…」
「気付けば、二人して朝まで寝ていきやがった…わけだな」
コクンと頷く、原田の両隣。
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