気配を消すのは割りと得意だ。
小柄なために隠れ潜むのにも難はなく、思いの外簡単に近づくことに成功。
「土方殿は、貴方に対し少々対応が酷いようですね」
屋根から雪の塊がドサリと落ちる。
「先程の屯所移転のことですが、私は山南殿が正しいと思いますよ? 私はね、力だけでは人は動かせないと思っていましてね、人を動かすために必要なのは力量と"ここ"だと思ってます」
クスッと口角を上げ、人差し指で頭をつつく伊東。
山南の表情は、ずっと固まったままだ。
「土方殿は確かに魅力的ですが、少々考え方に難がおありだ。 私からすれば局長殿の隣にいるのは、貴方のような剣も学もあるような方だと思うんですけどねぇ。 その辺り、どう思われます?」
「か、買い被りすぎですよ。 新撰組のためというならば、近藤さんの隣にいるのは土方君が一番良い。 彼は、いつだって正しいのだから」
ようやく表情が動いた山南は、眼鏡を支えながら小さく笑みを浮かべた。
何故だろうか、矢央から見る山南はいつものような落ち着きがない。
(どうしたんだろう。 山南さん…)
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