あの出来事は、もしかしたら夢だったのかもしれない。

そう思い込みたいほど、長いようで短い彼らとの暮らしは色濃く彼女の胸に残る。



幸せだった?

辛かった?


誰かに、そう聞かれたら、彼女は今なんて答えるだろうか。


新選組と誠の道を歩んだ一人の少女は、大人へと成長し少しずつ過去を振り返ろうと


ある大木の下に立つ。



見上げた大木は、何かを語りかけるかのようにそよそよと風に揺れていた。



「みんな…私帰ってきたよ」






彼女は静かに瞼を綴じた―――








ーー神社の御神木に額を当て、矢央はすーっと息を吐き出した。



「皆、これで私も本当の意味で前を向いて歩いて行けるよ。

ねえ、皆は幸せだった?辛かった?
私はねーーーーーとっても幸せだったよ」










たった一人の少女の想いから、何も知らない平和な世で生きていた矢央は幕末へと導かれた。


いつ命を落とすか分からない暮らしの中で出会った人達と共に泣いて笑って暮らした六年間。


長いようであっという間に時を駆け抜けた少女は、終わってみたら幸せだったと語れるまでに強く美しく成長し未来へと帰ってきた。


そして、誠を背負った男達を想い矢央はこれからも精一杯、笑顔でこの時代を駆け抜けて行くことだろう。

























駆け抜けた少女-二幕- 完