永倉の墓の前に立つと、込み上げる想いに視界が歪んだ。
彼と別れて三年、未だに恋しくて恋しくて本当は別れたくなんてなかったんだと。
墓に手を添えて撫でると、石の冷たさに胸がキュンと鳴った。
もうあの温もりは一生手に入らない。
あの優しい笑顔も一生見ることはできない。
大好きだった大きな手で頭を撫でてもらうこも叶わない。
けれどこれは矢央が選んだことで、そのおかげでこうして此処にいることができ、今では新選組を理解し愛してくれる人達が大勢いるのだから、あの選択は決して間違っていなかった。
「新八さん…もう一度だけでいい……会いたいよ」
あのあとの永倉のことだけは調べなかった。
永倉がどうやって生きてきたかを知りたい気もしたが、新しい家族との生活を知ればきっと嫉妬してしまいそうで。
本当なら、そこにいるのは自分だったんだよ?って泣いてしまいそうで。
ただただ願った。
彼が幸せに暮らせていることだけを。
此処には永倉が新選組隊士達の名前も書き込んでいて、矢央はふとそちらに目を向けてみたが時が経ち名前を判断することは困難だった。
何とか読める名前に彼らとの思い出を思い出しながら、視線を下げて行きある一点で視線を止めると思わず声が漏れてしまった。
「これって……」
一番下の一番隅にたった二文字だったが、その名前は確かに存在していた。
“矢央”
苗字がないのはあえてだったのかもしれない。
未来に残そうとしている物に、未来で生きている者の名前を書くのは本当なら良くないことだから。
だけど、これで矢央は確かに新選組に存在していて仲間だったのだと言われた気がして、とうとう涙を流してしまう。
「ううっ、ありがとう…新八さんっありがとうっ」
永倉の矢央への想いが伝わった瞬間だった。
お前は俺達の仲間なんだ、と。



