見た目に変化はない矢央だったが、中身だけは六年経ったままだったので一つも苦労がないということはなかった。
記憶まで無くしたくなかったのでこれで良かったが、幕末で壮絶な暮らしをしてきた矢央は既に大人びていて、考え方や仕草まで十五歳の少女には思えず、家族や友人の前で何度も溜め息を漏らした。
それもそうだ。
矢央にとっては六年経っていても、周りは一日も経っていないのだから。
「矢央ちゃん、なんか雰囲気変わったよね?」
「え?そうかな?」
「うん。あ、もしかして好きな人ができたとか?」
年頃の女の子達は恋バナが酷く好物で、幕末でも矢央は他人の恋バナに沖田などを巻き込んで楽しんでいたことをぼんやりと思い出した。
教室の窓から晴れ渡った空を見つめ微笑む矢央の周りでキャッキャッと久しぶりに聞く女の子の甲高い声に嬉しくなった。
寂しさや違和感もあったけど、やはり十五年間過ごしてきた本来矢央が過ごしていた時代なので寂しさや違和感も紛らわすことができた。
授業中にも変化が見られ、勉強が大の苦手だった矢央が真面目に先生の話を聞きノートを細かく取って、成績もみるみる上がっていくことに家族は大いに喜んだ。
特に歴史に関しては先生が驚くくらい矢央の方が物知りとなり、先生に勝ったと一人ガッツポーズなんてしたり。
「山南さんのおかげで漢字や計算も得意になったし、土方さんのおかげで昔の文字や俳句にも詳しくなったし、総司さんや平助さんのおかげで昔の遊び方や寺子屋のことも詳しくなったなあ」
過去を習いたければ過去へ行けってか、なんて自嘲気味に笑う。



