矢央が見た永倉のこれからは、矢央にとっては少し辛いものだった。

永倉は明治四年まで江戸で匿われながら過ごし、明治四年一月に杉村松拍の養子となり結婚しその後の余生を生きていくこととなる。

そして永倉は矢央が大切に思う新選組の生き証人となって書物を後世に残したり、近藤達の墓を建てたりという大切な役目を全うしてほしいと思った。


もしもこのまま矢央が止まれば、永倉は無理をして養子の話も断ってくれるだろうし、そうなれば未来が変わってしまう恐れがある。


矢央がいることによってこれまで大小少なからず未来は変わったかもしれないが、これから永倉がするはずの未来だけは変わってほしくなかった。


そうなればこれまで命を落としていった仲間達に顔向けができないし、何より心残りになる。


ここは矢央が身を引くべきなのだ………。





「新八さんに何も相談せず決めてごめんなさい。でも新八さんも気付いてるでしょう?
このままじゃ駄目だって……。このままじゃ新八さんも私も、きっと幸せにはなれない」

「…んなこと分からねぇだろ」

「分かります。だって私は、新八さんが笑ってくれてないと幸せじゃないもん」

「それは俺も同じだ」


二人とも毎日命の危険にさらされていては、心の底から笑える日なんてこないように思う。


矢央は振り返ると少し驚いたように目を見開いた。


あの頼もしく、いつでも自信に溢れていた永倉の目から涙が流れていたから。


「…新八さん…」


泣く程に離れたくないと思ってくれているのかと、矢央の決意が揺らぎそうになる。


伸ばしかけた手をグッと握り俯いて唇を噛んで我慢した。


ーーー駄目だよ。好きなだけじゃ、駄目なんだよ。




「…お前の言う通りだ。このままじゃいけねぇことくらい分かってる。今の俺じゃ矢央一人幸せにできねぇことも。でも…漸くこうして二人でいられるかもしれねぇとこまで来たっていうのに、結局離れる道しかねぇってのかよっ」

「………」

「……お前の答えなんだな?」

「え?」

「俺といることよりも、新選組のことを未来に残すこと。それがお前が決めたことなんだな?」



今度は矢央の瞳が潤みだす。

永倉といたい。

この先ずっとどんなに辛いことがあったとしても、永倉となら耐えていける。


それでも、永倉にはやらなければならないことがあるから、それを邪魔なんて出来ないし、永倉とこれから夫婦になる運命の人が、その先の子孫達のことを考えると耐えなければならない別れなのだ。