衝撃を受けている永倉の手をやんわりと退けて立ち上がると、数歩前に出た矢央の髪が揺れる。


永倉の視界に自分があげた深緑の結紐が揺れているのが見え、それが自分の胸を切なくさせた。


なんとなく矢央が言わんとすることが読めてきたのだ。




「新八さんに、ううん皆に実は隠していたことがあるんです。池田屋でお華さんに最後私はある選択肢を託されました。
もしかしたらあの時決意した気持ちが揺らぐことがあるかもしれない……もしかしたらその結果を変えたいと思う日が来るかもしれないからって、お華さんはある選択肢を先延ばしにしてくれたんです」



それは未来へ帰るか、帰らないかという選択だとあの場にいた永倉は知っていた。


だから永倉の予想はきっと当たってしまうのだろう。




「私たちは此処でお別れしなきゃいけないんです。
私は私の生きるべき世に帰らないといけない。お華さんに貰った力で、何度か皆の未来を見たけど、どこにも私はいないんです。
……勿論新八さんの未来にも、私はどこにも存在しない。ううん、もともと存在してちゃいけない存在が私なんですよ」



ずっと矢央が悩んでいた事はこれだった。

永倉とずっと共にいたかったが、きっとそれは無理なんだろうと悟った。


永倉の危険を助けることもできず、それどころか矢央がいては永倉はどうにかして矢央の下に止まろうとしてくれる。

しかしそれが永倉に危険を及ぼす。

愛した人が常に危険に晒されるのは、自分の身が削られるように痛い。


自分が傍にいたいからと止まっていては、きっと永倉の未来は長くないだろうと思い未来に戻る決断をしたのだった。



「私が此処にいると、新八さんを縛ってしまう。新八さんの未来には、私は必要ないんです」

「…さっきから聞いてりゃあ好き勝手言いやがって。お前、さっきから俺のことばっかじゃねぇかよ……」


苛立つ気持ちを静めるために髪をガシガシと掻き回す。

矢央に辛い選択をさせているのは自分で、それは全て自分のための選択なのだ。