矢央が待ち合わせに指定した場所は、始まりの場所であるあの神社。

市村は危険だから付いて行くと言ったが、矢央はそれを丁寧に断って一人で出てくると、永倉よりも先に神社についた。


すっかり紅葉に染まった御神木を見上げる矢央の表情はとても穏やかだった。





「矢央」



愛しい人の声に微笑み振り返ると、三カ月ぶりの対面となった永倉と抱き合う。



「新八さんの匂いだ~」

「矢央、会いたかった。元気にしてたか?」



最近知ったことだったが、永倉は文だと意外と熱く愛の言葉を並べるらしい。


読む度にこそばゆくなって、でも心が震えるほど喜んだ。


「元気でしたよ。新八さんは、まさか毎日酔っ払ってたとかないよね?」

「匿ってもらってる状況で、さすがの俺もそれはねぇよ」



朝も早い時刻で人の気配は全くなく、二人は御神木に持たれて腰を下ろして座った。



「ねえ新八さん、ちょっと懐かしいこと思い出したんですよ」

「なんだ?昔話か」

「最初の頃に新八さんに餌付けされたこととか、芹沢さんの時に行くなって引き止めてくれたのに突っぱねたこととか…」

「餌付けってなあ。何度か言ったが、あれは総司が用意したもんだぞ。それに、芹沢さんの時は止めても無駄なんだろうなってなんとなく思ってた」

「それなんですよ。私、この時代にきた時って多分子供よりも手がかかってた。だから皆に支えてもらってた」



最初の頃は怒られるほうが多くて、意地っ張りで強がりな矢央はなかなかそれを素直に受け入れられずにいたこともある。

取り巻く環境が違いすぎてホームシックにもなった。


それでもあの時甘やかす人ばかりだったら、今まで生きていられたか分からない。



「お前本当に言うこと聞かなかったもんな。危ないことに自ら首を突っ込むもんだから、見てるこっちが肝が冷えた。
でも、そんなお前だったから、いつからか目が離せなくなって、気付いたら惚れてたわけか」

「ん?じゃあ、結構前から私のこと…」


ポッと頬を染めてニヤニヤと笑う矢央の頬を摘まみながらも、それは事実なので否定はしなかった永倉に矢央は嬉しそうだ。



「本当は言わない方がいいと思ってたこともある。お前みたいに真っ直ぐな女には、同じように澄んだ心を持った真っ直ぐな男がいいって。だからな、本当は平助を応援してたんだよ」


真っ直ぐすぎる男だった藤堂なら、きっと矢央を幸せにできた。

矢央の心がなかなか藤堂に向かなくても、二人でいたらいつかきっと藤堂の想いは届いていたように思う。


だが藤堂を失った時、矢央を命がけで守り託して逝った藤堂を見て、その時決意した。 


いつかこの想いを伝えようと。



「お前は俺を怖がってるとばかり思ってたからよ、今だから言うが失恋覚悟だったぞ」

「それは私の台詞です。私もずっと前から新八さんを意識してたんです。総司さんや山崎さんにはバレてて、何度かからかわれました」

「そう、だったのか…へえ…」


珍しく照れた様子の永倉。


そっぽ向いて見えた耳がほんのり赤かった。



永倉も照れるんだと新たな発見に微笑んだ。