「なんで鉄までついてくんだよ」

「いいじゃないですか!矢央さんの護衛です」

「鉄がいたら足手まといだな」

「ひっでえ~」


のぶに買い出しを頼まれた矢央の付き添いに永倉と市村が付き添い、矢央の前で繰り広げられる会話に思わず笑ってしまう。


こうしていると京にいた頃と何も変わってないようだ。



「で、あとは何を買えばいいんだ?」

「えっと大根とお醤油ですね」

「じゃあ重い醤油はあとにして大根だな」



ふと視線を感じた矢央は隣に立った市村を見上げた。


市村と別れた時には背丈は同じくらいだったのに、今では矢央の背を越してしまった市村。


可愛がっていた弟のような市村が無事に帰ってきてくれてことに改めて嬉しくなった。


「どうかした?」

「こうしてると二人はもう夫婦みたいだなって。まさかややがいたりしませんよね?」

「なにそれ?」

「…赤ん坊だ」


聞き耳を立てていた永倉に突っ込まれると、矢央の顔はみるみるうちに赤く染まり頬を両手で包み込んだ。


「あ、赤ちゃんなんてっ」

「えっ、でも二人って一つの床で寝てますよね?だったら可能性がないことも…あだっ!!」



市村を拳骨が襲うと、涙を浮かべて頭を押さえた市村が永倉に抗議する。


「餓鬼が詮索するんじゃない。ほら、これ持て」


大根を手渡された市村は渋々といった感じで足を進め、矢央にいたってはまだ火照る顔を手で仰ぎながら二人のあとに続いた。



醤油も買い終えて家に向かって歩いていると、一番先頭を歩いていた永倉が歩みを止め、その後ろで荷物を全部持たされ文句を言っていた市村を宥めていた矢央は永倉の背中にぶつかって止まった。


どうしたのかと聞こうとすると隣にいた市村が矢央に荷物を渡してくる。


「なっ?重いって!!」

「すみません。でも手が塞がってると刀抜けないんで」


矢央を守るようにして永倉の隣に市村も並び「敵ですか?」と永倉に尋ねる。


「……ああ」


三人の前に立った男の名は鈴木三樹三郎、元新選組幹部の後、離脱後御陵衛士そして新選組が殺した伊東甲子太郎の弟。


鈴木にとってはこれは本当に偶然だった。

たが偶然にせよ新選組幹部だった永倉、兄の仇である男が目の前にいるのだから忘れることのできない怒りが込み上げてくる。



二人は睨み合うが刀に手はかけていない。


市村は二人の様子を窺いながらも、矢央を危険な目に合わせないように後退りこの場は永倉に任せるべきと判断した。



「お久しぶりです。永倉さん、それと貴女は間島さんだったかな?」

「……」

「兄が貴女は女だと言っていたのは本当だったようだ。すっかり女らしくなった。もしやお二人は夫婦にでも?」


気味の悪い笑みを浮かべ様子を探る鈴木。


矢央は不安になって永倉の背中を見つめゴクンと生唾を飲み込み、永倉は永倉で今まで感じたことのない恐怖を初めて味わっていた。


今はもう新選組はない。

ないが、鈴木にとっては新選組があろうがなかろうが兄の仇に変わりなく、そして現に永倉は伊東暗殺に深く関わってもいたから逃げようがない。


今刀を抜けば斬り合いが始まるだろうが、出来るならこの場は何事もなく終わりたい。


漸く穏やかな暮らしを手に入れた矢央に、また血を見せるのは避けたくて、危険な目にもあわせたくなかった。