翌朝、玄関前で土方を見送るために立った矢央はこれで何回目だっけと薄く笑みを浮かべながら、土方に握っておいたおにぎりを包みに入れて渡した。


「お腹すいたら食べてくださいね」

「ああ、悪いな」




ビシッと洋装姿も決まり、髪も後ろに撫でていると土方は昨日矢央と話していたちゃらけた雰囲気はどこからも感じない。


ほんの少しドキッとしてしまったのは、きっと昨日と今のギャップのせいだと言い聞かせた。



「土方さんはこれから何処へ行くんですか?」

「蝦夷地だ。…多分これが俺の最後の戦になる」


太陽が昇ったばかりの空を見る瞳を細めた。


朝焼けに照らされた土方の横顔は一切の曇りなく、本当に“最後の地”へと出向こうとしているのだと分かった。


「矢央、本当に永倉の帰りを待つのか?」

「え?」

「お前ももう二十歳だろう。帰って来るかもわからねぇ野郎を待つよりも、やっぱり今からでも縁談のは…」

「いいです」


顎に手をやり今から義兄に話してこようかと考えていた土方の思考を停止させ、土方が矢央を見るとしっかりと決意の籠もった眼差しで土方を見ていた。



「私は新八さんを待つって勝手に決めてますから」

「それで本当に後悔はしねぇか?」

「はい。てか、優しい土方さんって気持ち悪い」

「……お前はなんでそうなんだよ」



がしがしと髪を掻き上げて、盛大な溜め息を漏らす。


そのあときょとんとする矢央の鼻を指で摘みグイッと引き上げた。



「いたい!いたい!いたい!」

「最後かもしれねぇんだぞ。普通は…」

「いたいってばっ!!」



小声で呟いた言葉は痛みにもがく矢央の耳には届かなかった。