「…あっごめんなさいっ」
勢いよく正座して頭を下げた矢央の前には呆然とした土方がいた。
怒らせてしまったのかと恐る恐る顔を上げて様子を窺った。
「土方さん?」
「…あ、ああ?」
「あの、なんかごめんなさい…」
今のは口付けとは言えないだろうが、こんな土方は見たことがなかった矢央は申し訳なくなってもう一度謝る。
「…ああ、大丈夫だ」
何に対しての大丈夫なのかは、言っている本人ですら分からず首を傾げていた。
そんな土方を怪しんでいた矢央だったが、暫くするとどうでもよくなって思い出したかのように背伸びして立ち上がった。
未だに首を傾げてうーんと唸っている土方に「今日は止まっていくんですよね?」と確認すると、漸く元に戻った土方が頷いたのでホッとする。
そして夕餉の支度を手伝うといって部屋を後にした矢央は壁に背中を預けズルズルと座り込んだ。
両手で頬を包み、指の隙間から覗く頬は真っただ。
「ッッッ!!びっ…くりしたあ…」
目を覚ましたら土方の顔が目の前にあって実は物凄く驚いたし、慌てて起き上がってみると有り得ない展開に寝起きの頭はパンク寸前。
だけど本人の前ではあくまでも冷静を装うと、何故か土方の方が意外な反応を見せたものだから変にドキドキしてしまった。
「…はあ、新八さんに会いたいなあ」
それでも意識するのは直ぐ傍にいる土方ではなく、ずっと想っている永倉。
最近ますます会いたい気持ちが募る。
今は土方がいてくれるから少し寂しさが紛れているが、土方がいなくなったあとを考えたら気持ちが重くなった。
「…でも、待つって決めたもんね」
そう自分に言い聞かせたあと台所へと向かった。