「ところで永倉は帰ってきてねえのか?」


話題を変えて矢央を見ると、とたんに後悔した。


うるうるしていた瞳から、永倉とい禁句を聞いてしまって抑えがきかなくなった矢央の両の瞳からドドドっと涙が滝のように溢れている。



「なっ…お、おいっ泣くなっ…」

「だっでぇぇぇ土方ざんのばがぁあぁあっ」

「馬鹿ってなあ…ああ、もう…」



泣き方があまりにも豪快すぎて思わず笑いそうになった土方だったが、見ているうちに矢央の辛さが伝わってきて、自然と目の前の細い身体を抱き締めていた。


変な体勢になりながら土方の腕に抱かれた矢央は一瞬涙が止まったが、背中に回る手の温もりにまた涙を流す。



「…落ち着いたか?」

「…はい。ごめんなさい」

「なにがだ?」

「なにがって、その泣いてしまって」


沖田のことがあってから土方が来るまで、土方の姉の家で世話になりながらもずっと一人で頑張ってきた。

彦五郎やのぶは優しくしてくれるので大好きだったが、心のどこかでいつまでも世話になるわけにもいかないと一線を引いてしまっている。


「何を今更。昔から泣くか笑うか食うか寝るかしかしてねえだろ」

「…それ、ただの子供じゃないですか!!」

「だから、餓鬼だろ」

「子供じゃないっ!」



いつも通りのやりとり。