本当の本当は、昔みたいに皆に甘えたい守られたいと思った。


安心できる温もりの中で、また皆と楽しく可笑しく暮らしたい。

でもそれは叶わないことも分かってるし、沖田のために強くあろうとした。

支えてきてくれた人達を、今度は自分が支えようと強くありたかった。



「…っ行かないでぇ…原田さん…行かないでぇ」



一人は嫌だ。

寂しいんだよ?

もう誰も見送りたくなんてないんだよ。


だって見送っても、誰も帰ってこないから。



「悪いな、寂しい思いさせてるよな」

「……っっ。寂しいよっばかっばかっ…みんなばかっ!」

「うん…うん」

「……原田さん」



原田の首に腕を回し顔を埋め、そのまま聞いてと口を開く。

その間、背中を赤子をあやすように撫でる原田。



「…原田さんに会えて良かった。元気で頑張ってきてくださいっ」



その時、原田もこらえていた想いが溢れ、涙こそ流さないが鼻の奥がツンと痛み目頭を熱くした。



「俺も矢央に会えて良かった。楽しかったぜ」



矢央を下ろし、もう一度頭を撫でてから背中を向けて歩き出す。



「原田さんっ、ありがとう!本当にありがとう!いってらっしゃい!!」

「……いってくる。元気でな!」




原田はまた会おうとは言わなかった。

沖田同様にこれが最後だと思っていたから。

最後に矢央の本音を聞けて良かったが、あれが本音ならば矢央は今以上に辛い思いをすることになる。


空を見上げ願った。

「新八、矢央を迎えに来いよ」


別れた友に、原田が最後に託した言葉だった。




その後原田は、家族に会いたくなって永倉と別れたのに、何故か矢央と会ったあと行方をくらまし、その後上野戦争に加わりその時受けた傷が致命傷となり死を迎える。



大柄で良く笑い喧嘩っ早い原田だったが、とても仲間想いで妻と子供を本当に愛し優しい一面を持った男だった。

宴会で酒を飲む度に、切腹した痕を見せ付けるので藤堂や永倉にはウザいと軽くあしらわれるも、それでも楽しげに笑う。

槍を持たせれば右に出る者はおらず、新選組の数ある戦いに原田の活躍が色濃く残されている。


そんな男は死に際に仲間達を思い家族を思い、死ぬその時まで「楽しかったぜ」と、原田らしく笑っていたという。



新選組十番隊組長 原田左之助。
慶応四年五月十七日、上野戦争で負傷し亡くなる。

亨年、二十九歳である。