「本当に行っちゃうんですよね?」

「なんだ寂しいか?」


玄関先で俯く矢央の顔を見ようと高い背を屈めて覗き込む。

まだ腫れの引かない目元に指を当て優しく撫でてやる。



「……もう一度、新八さんと平助さんと原田さんと四人で遊びたかった」

「……あの頃は楽しかったな。矢央、俺は本当にお前を妹のように思ってんだぞ」


覗き込む顔が優しく微笑んで、大きな手で頭を撫でてもらえると嬉しくて堪らないと同時に離れがたい。


「だからその、新八のことを待つって言うなら反対はしねぇが。新しい恋を探すのも一つだと思う」

「…待ってます。私は新八さんしか好きになれそうもないから。もちろん原田さんのことも待ってますからね」


だから帰ってきてよ、とは口に出さない。


重荷にはなりたくないから。



「お前の頑固さって、土方さんに似てるよな。ん、新八にもか」

「二人とも教育係みたいでしたからね。似てくるのかな?」

「よせよせ、あんな女モテねぇから。それより矢央、ちょっとこっちこい」


なんだ?と、首を傾げて原田を見上げると原田は両手を広げている。

飛び込んでこいってことかな、と納得してゆっくりとその広い背中に腕を回そうとした時、一瞬で視界に広がる景色が高くなって、地面は遠くなっていた。


何度目だ、こうして抱き上げられるのは。




「原田さんっ!!」

だから子供じゃないんだからと抗議しようとしたが、原田の顔を見て止めた。


止めてよ。原田さんらしくないじゃん。

そんな悲しそうな顔しないでよ。



「甘えて良いぞ。兄ちゃんが受け止めてやるからよ」

「……」


やだよ。恥ずかしいもん。


「新八に本当は一緒にいてくれって言いたかっただろ?斉藤にも、土方さんにも総司の手前強がっただろ?
でも本当は誰かにすがりたいよな、お前はやっぱり女だし俺達が甘やかしてきたから、まだまだ甘えん坊な餓鬼だもんな」

「子供…じゃないよ…」


だけど、本当の本当は別れを経験する度に胸に痛みが走り辛くてしかたなかった。