「月日の流れとは早いものだな」


甘味処を出て小さな神社の階段に腰掛けて、斉藤は懐かしむように目を細めている。


心地良い風が頬を撫でる。


「間島が来た時、まさか五年をこうして共に過ごすことになるとは正直思っていなかった」


斉藤とは他の人と比べてそんなに関わったことはなかったが、矢央の危機には何かと助けてくれていた。

新選組幹部の中でも若い彼なのに、落ち着いていて物静かで何を考えているか分からない斉藤。



「斉藤さんのおかげでもあるんですよ」


数少ない斉藤との思い出が蘇る。


「私が新選組での生き方を考えるきっかけをくれたのも、新選組を出て行った私が戻れるようにしてくれたのも斉藤さんでした」



芹沢亡き後、矢央は土方達に積もる不満や不安感を拭えずに一人悶々と考えて落ち込む日々が続いていた。


そんな時、斉藤はやって来て遠回しな言葉ではなくいつも直球で矢央の心に入り込んでくる。






『己を信じるというのも、他人を信じるというのも難しい上に時間がかかるものだ。
無理に周りに流されることはせぬことだな。 さもなくば、お前は此処にいない方がいい』


その言葉の通り、彼等を信じるまでに沢山の時間をかけ、そして今に至る。



「斉藤さんの言う通り、本当に時間かかりましたよ。でも今の関係が築けたのは、これまでの五年間があったからですよね」

「そんなこともあったか」



『お前が正しいと思う道を行け。 これから、更に血を見る機会は増えていくだろう。 だからこそ、お前はお前の居場所を見つけておくべきだ』



最初は手を差し伸べてやる気なんてなかった斉藤だったが、矢央があまりにも落ち込むので見ていられなくなった。

女は新選組にいない方が良いと思っていた斉藤なのに、あの時どうしてか矢央を放っておけなくて言った言葉を思い出した。



そしてそれが、矢央の誠の志へと繋がっていく。



「あの時、斉藤さんに言われた意味が分からなかった。居場所を見つけるのが、あんなに大変だとも思ってなかった。
だけど“正しいと思う道を行け”。この言葉が、私が迷う度に一歩踏み出させてくれました」