そして翌日、納得いかない顔をしたままの沖田と共に近藤を見送った。
最後まで何か言いたげな沖田だったが、さすがに諦めたのか「お気をつけて」と、近藤をおとなしく見送る。
昨日と同じように後ろ姿か見えなくなるまで、二人共無言のまま見送り続けた。
「行っちゃいましたね」
雨はまだ止まない。
視界の隅で傘が傾くのが見えた。
「総司さんっ?」
「…っごほっ…だ、大丈夫っ」
膝を付いて口元を押さえる沖田。
やはり病状が戻りつつあったらしく、近藤の前では強がってみせていただけらしい。
「近藤さんは騙されてくれなかったあ。私の負けですね」
「生きてほしい」
「え?」
「昨日、近藤さんが言ってました。少しでも長く総司さんには生きてほしい。これは最後の我が儘だって」
「近藤さんが、そんなことを…」
沖田を立たせ家の中に戻る。
玄関先に腰掛けたまま、大きくできた水溜まりをぼんやりと眺めた。
「総司さんに近藤さんが必要なように、近藤さんにも総司さんが必要なんです。だから生きていてほしくて、無理をさせたくなかったんです」
「それでも私は近藤さんの傍にいたかったのに。本当、我が儘だなああの人は」
「総司さんも負けてませんよ」
ほら部屋に戻りますよ。
と、沖田を促し玄関の戸を閉める。
これでとうとう新選組(甲陽鎮撫隊)は全員いなくなってしまった。
彼等の中の誰と再会できるのか、今は分からないが待つしかない。
ただずっと彼等の無事を祈りながら、彼等の帰りを待ち続け言おうと決めている。
「おかえりなさい」
笑顔で出迎えようと。
そして言ってほしい。
「ただいま」
どれだけの人が、そう返してくれるのだろうか。



