「矢央君なんだろう?」


静かになった室内に近藤の声が響く。



チラリと見ると、久しぶりに見る近藤の優しい笑みがあった。


「総司が元気になったのは、君の力のおかげなんだろう。ありがとう。久しぶりに総司と楽しく話せたよ」

「あ、」

「本当は総司の願い通り連れて行ってやるべきなのかもしれんが、総司は元々武士になりたいとか将軍様に仕えたいとか思っていたわけじゃない。俺に付いて此処まで無理させてしまったんだ」



一息つくように少し冷めたお茶を啜る。



「俺は総司に少しでも長く生きていてほしい。これは俺の総司への最後の我が儘だ」



しとしとと降る雨に視線を流す近藤。


近藤がこんな風に矢央に気持ちを打ち明けるのは初めてかもしれない。


態度が偉そうになったとか言われている近藤と、可愛い弟分を想う優しい兄の顔の近藤、どちらが本物なのか、それともどちらもなのか。


「近藤さん…」

「矢央君。総司をよろしく頼む」


あの近藤が矢央に向かって頭を下げている。


驚きに目を見開く矢央。



「総司の傍にいてやってくれ」

「……はい」


矢央の返事を聞いて安心したのか近藤は目尻の皺を深くして微笑んだ。